DataCampの講師が「私のコースを受講しないでくれ」と言っている。

追記(2019/04/26):

DataCampのCEOが辞任しました。が、これで終わりではなさそう...


DataCampは、データサイエンスに特化したオンライン学習サイトだ。特にR界隈では、有名人が講師陣に名を連ねていて人気がある。 そこでコースを持っているNoam Ross氏が、「私のDataCampのコースを受講しないでくれ」と言っている。

多くの講師がこれに続いて同じ意思表示をしている。

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https://noamross.github.io/datacamp-sexual-assault/ に集められたツイート)

また、RStudio社も、DataCampへのリンクをすべて取り除き、RStudio社に所属する講師の名前をDataCampのウェブサイトで使わないよう求めている。

なぜこんなことになっているのか。

これは、2017年10月に起こったDataCamp社の「ある役員」*1による従業員に対する性的暴行と、それを隠蔽しようとするDataCamp社のやり方に対する抗議だ。 そんなに情報を追えてるわけではないけど、あまりにも日本語の情報が見当たらなかったので少しだけここに書いてみる。

DataCampの講師の動き

今年4月3日、この事件への適切な対応を求めて100人以上の講師が連名でDataCamp社に意見書を送った。 それを受けて、DataCamp社は翌4月4日、ブログに「謝罪」を公開した*2。しかしその謝罪が表面的で、DataCamp社に都合がいいように書かれた*3ものだったので、多くの人が落胆し、ボイコットを呼びかけるに至っている。

この意見書の取りまとめの一人であるJulia Silge氏が、意見書を送るまでの経緯の一部を自身のブログに書いている。

意見書を送る何カ月も前から講師たちはDataCamp社との建設的な議論をしようと試みてきた。 それは、この事件を公表すると脅すとか「ある役員」を解雇するとかを求めていたわけではなかった。 ただ、事件に関する噂が広がるにつれ、DataCampに関わる講師としても自身の評価に関わる問題になってきていて、無視できない。

This letter came after many months of instructors like me attempting to engage with DataCamp in productive discussion. It did not threaten to go public or call for the executive’s firing, but it did bring up how the growing rumors and uncertainty around misconduct at DataCamp have been a problem for the personal reputations of instructors.

しかし、この問題についての懸念をDataCamp社に伝えても、DataCamp社は文章で返答せず、時間のかかる1対1の通話を指定してきた。 複数人での対話の場は一度だけ設けられたが、それはウェビナー形式で、講師側は話せないし、他の参加者に誰がいるのかを知ることもできなかった。

Employees refused to respond in email/writing about concerns I raised, and instead always deferred to scheduling (time-consuming and yet unproductive) one-on-one calls. There was one group meeting for instructors who had raised concerns, but it was organized as a webinar where instructors could not speak, could not see who else was in the meeting, and could not see questions typed by other participants.

意図は明らかだろう。DataCamp社はこの問題にまじめに向き合うつもりはなく、時間稼ぎをして講師をなだめればいいと思っている。 嵐が過ぎ去るのをただ待てばいいと思っているのだ。

なぜDataCamp社が講師に対してこのように強気でいられるのかといえば、講師にはDataCampのコンテンツの公開を止めることはできないからだ。 そういう契約になっているらしい。なので、冒頭のように「私のコースを受講しないでくれ」と呼び掛けるに至っている。 対話では無理だとわかった以上、実力行使しかない。

DataCamp社の従業員の動き

DataCamp社の従業員の中にも、会社のやり方に疑問を持った人がいた。 その人物は、会社の対応に問題を感じ、上司にその懸念を伝えた。その3日後、DataCamp社は彼を解雇した。同じく懸念を伝えた同僚も同じ日に解雇された。

I disclosed to my manager on June 12th, 2018 my concerns about DataCamp’s internal handling of the sexual assault; DataCamp fired me three days later. (https://dhavide.github.io/a-note-to-our-commuity-on-building-trust.html)

解雇後、DataCamp社は、non-disparagement clause(悪口禁止条項?)を含む契約書にサインすれば1月分の給料の額の金を渡すと伝えてきた。 この条項はこの事件について話すことを禁止するものなので、2人はサインしなかった。

DataCamp offered me the equivalent of a month’s pay if I would sign a separation agreement that included a non-disparagement clause. (Third Bit: An Exchange with DataCamp)

良心を持って行動する人がこのような目に遭うのでは、内部からよくなるのを期待はできなそうだ。 やはり、外部からプレッシャーをかけていくのが必要な動きのような気がする。残念ながら。

感想

この記事は、別にDataCampへのボイコットを強く呼びかけるものではない。 ここまで読んだ上でDataCampを使うのなら、それは自由だと思う。講師に罪はないわけで。

ただ、自分のコースを取らないでほしいと願っているDataCampの講師がたくさんいることを知ってほしい。 自分のコンテンツが、自分の望まないところに使われる苦しみを想像してみてほしい。

とりあえずそのことだけを伝えたくてこの記事を書いた。

*1:どうやらCEOらしい。参考: https://ironholds.org/datacamp/

*2:ひっそりと公開されたのがこのツイートで世に知れ渡った:https://twitter.com/no_reply/status/1113923302915837958

*3:"Every detail that might possibly put DataCamp in a better light is included, and details that provide a counternarrative are excluded."とSilge氏のブログに書かれている