もうtidyの訳語はtidyでよくない?

Ansible*1の開発者のひとが昔、idempotence(冪等性)という言葉についてこんなことを言いました。

I think lots of people coming from certain other tools might not know what this word means, and are saying it too frequently :) I've seen it crop up in bug reports a fair amount, "X is not idempotent", etc, and in 86.2% of the occurances, the word "idempotent" is being used incorrectly.
(...略...)
I think "idempotence" has somehow become the new "um" of conversation, and folks like to insert it in many sentences to make things sound complicated. Don't do that! :)
(https://groups.google.com/d/msg/ansible-project/WpRblldA2PQ/lYDpFjBXDlsJ)

冪等性、冪等性ってどいつもこいつも言い過ぎで、誰も意味が分からなくなってる。もはや会話の息継ぎの「えーと」くらいの意味しかなくない?、と。

翻って、私たちRおじさんの身の回りにもこんな言葉はないでしょうか。

そう、「tidy」です。

時に「整然」と訳されたり「整理」と訳されたりするこの言葉が指すところは曖昧です。「tidyverse」の「tidy」は「tidy data」のそれとは意味が違う、ということすら多くの人は気づいていないでしょう。

パッケージ名にtidyが入っているものだけでも10個以上あるし、

x <- available.packages()
grep("tidy", rownames(x), value = TRUE)
#>  [1] "htmltidy"       "tidyboot"       "tidycensus"     "tidygenomics"  
#>  [5] "tidygraph"      "tidyquant"      "tidyr"          "tidyRSS"       
#>  [9] "tidyselect"     "tidystringdist" "tidytext"       "tidyverse"     
#> [13] "tidyxl" 

説明文も含めると、tidyを謳っているパッケージはそれこそ山のようにあります。

もはや、「tidy」が何を指しているのかは謎です。ある人が口にする「tidy」と別の人が口にする「tidy」が同じものを指している保証はありません。

私は「tidy data」の「tidy」を「整然」と訳すのには賛成です。この「tidy」は意味が(比較的)明確なのでそれでいいでしょう。でも、他の「tidy」はもはや、ただの態度であって意味なんかないんじゃないでしょうか。

こういう感じ。

「tidy」がただのバズワードだとは思っていません。議論したり失敗したりしつつ、「これがtidyだ」みたいな合意が形成されていくことを願っています。でも、今は「tidy」の意味をはっきりさせるのはもうちょっと保留したいし、もういっそ「tidy」のままでよくないですか?

というポエムでした。とはいえ訳として日本語をきちんと当てないといけない場合もあるというのはまあ理解してるつもりです。

あなたなら「tidy」を何と訳しますか?

*1:いい感じにサーバをセットアップするツール