グラフ警察のおまわりさんこのひとです! Y軸が!!、と通報する前に深呼吸しよう。
グラフに関して口うるさい人を巷ではグラフ警察とか呼びますが、グラフ警察の人の中には、なんでもかんでも「Y軸がゼロから始まってない!」と言っちゃう人がいます。
それに対してQuartzは「別にええんやで」と諭しています。
これを読んで、なるほどなーと思う一方でなんとなく腑に落ちないところがあったんですが、Voxのすばらしいビデオを見て納得しました。
まあたかだか2分半のビデオなので内容は見てもらうとして、個人的には1:55ごろに出てくるこの言葉が印象的でした。
When people are really lying with charts, the main thing they're normally doing wrong is leaving out the CONTEXT, not leaving out the ZERO.
グラフで嘘をつく人はゼロからの距離をごまかすのではなくて文脈をごまかすのだ、と。
で、これの実例をTLで見かけて、おおっ…てなったので軽く書き残しておきます。
Y軸がゼロから始まっていないグラフ
先日の痛ましい軽井沢のバス事故の報道が続いていますが、その中で、小泉政権時代の規制緩和との関連を指摘する声があります。
そういう意見に添えて、NHKにこんなグラフが出ていたみたいです。
軽井沢のバス事故。NHK『ニュースウォッチ9』でも、貸切バスが平成12年に免許制から許可制に規制緩和され価格競争が激化し、人件費が抑制されたと放送。これは政治の責任だよ。規制緩和で安全が脅かされるのは当時から指摘されていた事だ。 pic.twitter.com/Q9XAUUiVK7
— 朝日庵 (@asahian222) 2016, 1月 22
Y軸がゼロから始まっていない棒グラフ。これは今にもグラフ警察が飛んできそうです。ハラハラします。
しかし、注目すべきなのは「グラフがゼロから始まっていない」ことではありません。
もうちょっと期間が長いグラフ
同じデータについて報道ステーションが描いたグラフを見てみましょう。規制緩和より前のデータも入っていて、印象がだいぶ違います。
『報道ステーション』で規制緩和の問題を取り上げたね。貸切バス業界では2000年、安い運賃と高いサービスをうたい規制緩和が行われ、バス事業者の数は急増した。各社は安値を競い過当競争に。安全面を犠牲にした結果、事故が相次いだと。 pic.twitter.com/kg6eyvGJCW
— 朝日庵 (@asahian222) 2016, 1月 20
たしかに規制緩和の年に少しグラフの傾きが大きくなっていますが、その前から増加傾向だったことがわかります。「グラフがゼロから始まっていない」ということに気を取られて増加度がごまかされているのだと思っていましたが、そもそも増加傾向にあったということまでもが隠されていたのです。
これはNHKのグラフを見ただけでは分かりません。ごまかされてしまったY軸は少し注意すれば気づけますが、ごまかされてしまった文脈は元データを知らないと分かりません。まさに「the main thing they're normally doing wrong is leaving out the CONTEXT, not leaving out the ZERO.」という警句が身に染みる事例でした。
感想
たしかに、もろもろの報道とか流れてくるツイートを見ていると規制緩和も要因のひとつであるように思われます。しかし、それを補強したいがために都合のいいデータを切り取ってくるのはやっぱりまずいですよね。
誰もが心の中にグラフ警察の一人や二人は飼っているものですが、「Y軸ガー!」と言う前に少し立ち止まって冷静に元データを見るといいのかもしれません。しかしそれはそう簡単にできるとは限らないので、きっとこの先も文脈を隠されて騙されたりするんだろうな、とちょっと暗い気持ちになりました...。